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2021年10月18日 (月)

『季節の向こうに未知(ルビ:なにか)が見える』(林克著、幻冬舎、2120年10月23日)を読む。

 9月27日(月)18:30からせんげん台「世一緒」で開かれた「NPO障害者の職場参加をすすめる会」の運営会議のあとに1冊の本を渡されて、「読んでほしい」と言われた。
 『季節の向こうに未知(ルビ:なにか)が見える』(林克著、幻冬舎、2120年10月23日、四六判、定価1000円+税)という本だ。

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 著者は、「団塊の世代」の人で、「21歳の冬、僕の手足の感覚を失った。事故から半世紀、苦労を重ねながらも生きがいを見つけ努力し続ける一人の男の物語。大会中の事故により四肢麻痺となったスキープレーヤー。周囲の人々の支え、新たな出会いにより絶望を乗り越え言語聴覚士としての道を歩み始める」と帯に書かれている。
 N体育大学のスキープレーヤーとして、意気軒昂に上野駅から十和田十号で青森へ、そこから青函連絡船に乗り函館を経て、札幌まで行き、小樽についた後だった。
 著者と同世代の私は、当時、アルバイト中の出版社の「経営困難状況の克服」のために北海道支社に行かされ(実は青函連絡船に乗りたかったのが本意)、小樽市内のデパート労組、教職員組合、市職労、造船関係の組合事務所に赴き、集金旅行を行っていた時期だ。

 その事故は、小樽のスキージャンプ場での転倒事故で起こった。病院に担ぎ込まれたあと、状況は深刻だった。長いが本文を読んでほしい。

 《もう一カ月以上も湯舟に浸かっていないことを思うと嬉しい気分になった。(中略)
 「あれ」
 思わず唇から漏れた。何も変わらなかった。ベッドに寝ているときの暖かさがそのままで、足の踵やふくらはぎが先にお湯の中に沈んでいくのが見えるのに、皮膚を通し瞬時に伝わるはずのお湯の快感が全く感じられない。怪我以来いつもベッドの中で感じているジリジリとした少しの痺れ感と意識することのない体温が、そのままの感覚で沈んでゆく。
 湯気を感じる嗅覚や沈んでいく脚の視覚的な感覚と、何も感じない皮膚の感覚との間に、大き乖離があることに強いショックを受けた。腿でも腹部でもお湯に浸ってない状態と何も変わりはない。腕もそうだった。手首から先は手の甲も掌もお湯の暖かさを感じる感覚がなく痺れ感のみが残っているだけであった。力こぶが作れる上腕二頭筋は辛うじて感じられたが、その裏にあたる上腕三頭筋やその下の皮膚は触覚の機能を失っていた。脇の下に近い腕の上部、胸や首のところまで来るとやっと過去二十一年以上感じ続けてきた風呂の感覚が蘇った。うろたえた心の動きを周りの人に気づかれないよう、どう表現していいのか一瞬分からなかったが正直なところ動揺は隠せなかった。感覚がないってこういうことなのか‥…。
 感覚といえば首から両肩にかけて一瞬針で刺されるような鋭い痛みをまだ感じていた。一日のうちで数回あった。多いときには一分の間に三回から四回も走った。
 「この痛みは何ですか」
 と再び中林先生に尋ねた。
 「うーん、よく分からんが神経が通る路かもね」
 暖味な答えが返ってきただけだった。》
 ここまで本文は33ページまででしかないが、続けて読んでみようと思いなおすのに、1週間ほどかかった。

 この本の主人公と、私がHPの編集・制作をした「(株)ニューオタニ」(靴底企業)社長の尾谷さんは、高校生の時代に「スキーインターハイ」などで一緒に活躍したスキープレーヤー同士で近しい仲間だった。その縁で「読んでみて」と渡されたようだ。

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 ▽「創業して40有余年の想い」◆会社創業以来の沿革――尾谷社長の想い。
 http://www.new-otani.com/#2019otanisyatyounoomoi

 この本によって、尾谷さんが「春日部市内の豊野工業団地」(1981年)に新工場建設をして、障害者と一緒に働く企業とバリアフリーの工場現場をつくりたい、と強い思いを実践した基底に「友人の事故」があったからだと教わった。
 たしかにその後の著者は、大学を無事卒業をして、研究者の支援やネットワークの中で、博士号も取得し、新潟の「脳研究所」や専門学校で学生を育て上げる人間として、人生を謳歌して、まっとうしている。
 あとがきでは、「退職した後、ささやかな目標を持っている。家の一室を使って高次脳機能障害、認知症、失語症などで生活の場を狭められている近隣の人たちを何らかの形で援助したいと考え、週一で治療や相談を始めた。長年想い描いていた計画である。」と〆ている。
 本書の中には、時代的背景を語る箇所があり、「連合赤軍事件」「天安門事件」「アメリカでの9・11テロ事件」「三陸沖大津波3・11」、そして高度成長社会を経た「社会の変容」も語られている。団塊の世代には、大きな影響を及ぼした諸事件があったことが分かる。

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