(敬称略)
少し時間がたったが、本書を読んでみた。著者とは面識がないが、下山房雄のHPづくりで、青木慧の本の書評(『「日本的経営」の裏舞台を描く――【書評】『ニッポン丸はどこへ行く』、朝日新聞社、1983年、「朝日ジャーナル」、1983年9月16日号)を送っていただいたことがある。
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/simoyama/120915aokibook.pdf
著者は全編通じて、「戸木田嘉久批判」を「中林賢二郎」(労働運動史研究者)の論に依拠し展開しているが、ここにも後継者が生まれているのかと驚いたのが、第一。
ちなみに『戸木田嘉久著作集』(1988年12月から全5巻)の編集・企画をになったのが、編集子(会社の企画で立ち上がったが、その当時、戸木田論文を読んでいる人がいなかったので)。
第二に、宮本顕治(共産党議長)の論をはじめ、荒堀広(1970年代から1990年代までの共産党労働対策部)幹部の文章を、「企業別組合論」から切っている。
編集子が目を通してきた過去論文・単行本等では、4人目。個人の役割が大きいという認識があるので、指摘したい。
●2017年12月 3日 (日)「日本における『福祉国家』と労使関係」(猿田正機稿)を再紹介する
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-3dee.html
●2016年7月10日 (日)『あたりまえの労働組合へ』・全造船石川島――議論は続く。
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/post-7f4c.html
●木下武男著『格差社会にいどむユニオン―21世紀労働運動原論』(花伝社、2007年09月) http://e-kyodo.sakura.ne.jp/kinoshita/workers_union.html
第三に、著者は“企業別組合(会社組合)と「団結体としての(個人加盟、職業別・産業別を原則とする)労働者組合」の本質的相違が明らかになれば、「日本における企業別組合体制の克服」が課題となるでしょう”(376p)と書かれているが、そうはいかないのが現状だ。
企業別組合には、戦後からの長い経験値(「職場」を基礎に階級的・民主的強化論の流れ)や反合理化闘争の実践、倒産などの自主管理闘争の経験、地域闘争における「拠点論」などの経験など多数ある。
東京レベルで見て、千代田総行動、東京総行動で1980年代に力を発揮した東京争議団の人たち(報知印刷、日本フィル、浜田精機、パラマウント製靴など)の成功例は「地域共闘」「統一行動」の思想だった。
またマル生攻撃と闘い、「現場協議制」を獲得した国労など旧公共企業体労組は、「企業別組合」だったのが現実だ。
総評内部には、高野実の影響で、全国金属(当時)や全港湾などには、プロ専従者による産業別指導部づくりが成功していた(今も)歴史がある。
私鉄総連などでは、北海道地連出身の幹部が、総評議長になったこともある。
現在でも著名な闘いを組んでいる私鉄広電支部は、私鉄中国地連を基礎に企業別組合として統一し、非正規労働者の正規化をみんなの合意で取り組んでいる。
現段階で「中小企業労働運動の領域」で、組織拡大を進めているのは、各地のユニオンや全国一般東京東部労組をはじめ「企業別組合の連合体」だ(ナショナルセンター連合内最大の組合・UAゼンセンはここでは触れない)。
本書は、階級的民主的労働運動を主張している人たち向けに書かれているが、1960年代以降、残念ながらその影響力は大きいとは言えない。
その流れを引き続いている全労連傘下の医労連、生協労連、全労働(国公労連)、JMITUなどは、びくともしない「企業別組合」だ。
編集子は今研究・実践が始まっている「業種別職種別ユニオン運動」がそれと併存する形で、推移していくと予測している。
すべての担い手に、納得できる提起をするように著者に期待したい。
本書に展開されている「戦前以来の政府・財界・官僚の取り組み、戦後直後の労働組合法制」などは、読んでいただきたい。(敬称略)
《注》以下のような、著者のプレゼンが書かれている。
企業別組合(会社組合)と「団結体としての(個人加盟、職業別・産業別を原則とする)労働者組合」の本質的相違が明らかになれば、「日本における企業別組合体制の克服」が課題となるでしょう。(中略)
この原則・結論の適用・応用にあたっては、既存分野・領域――①企業別組合をめぐる取り組み(主として大企業企業別組合の内部・関係部署での取り組み)、②(主として個人加盟の)諸形態の「企業別組合」でない労働者組合(合同労組、一般労組、地域労組、専門職労組など)と、新規に組織化する分野・領域(従来、「未組織労働者」とよばれた、現時点で組織を持たない「無組織労働者」の組織化運動)の両者を、その区別と連関・統一においてしっかりと位置づける戦略・戦術が必要とされるでしょう。
一般的対応論として言えば、当面は「共存的組織論」の範囲にとどまるのか、それとも、当初から個人加盟の職業別・産業別組合を前提条件として既存組織再編と新規組織化に取り組むのか、を明確にすることが大切です。「共存的組織論」を排して、職業別・産業別組合組織化に取り組む場合は、いずれの職業別・産業別組合も全国規模・レベルとなるので、適切な全国的センターの設置が必須となるでしょう。さらに、同センターが必要とされる権限や機能(組織力、財政力など)を持つことも要請されるでしょう。また、企業別組合とその支配的体制の法的根拠となっている現行労働組合法とその関連法制の根本的改定問題も浮上するでしょう。(376p)
《別掲》企業業別組合は日本の『トロイの木馬』」(宮前忠夫著)をめぐって[2017年11月18日 (土)]
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-e777.html