猿田正機さんの「社会民主主義型福祉国家」と労働運動
猿田さんの論理を紹介したく前に書いたものを本ブログに書いてきた。
「日本における『福祉国家』と労使関係」(猿田正機稿)を再紹介する
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-3dee.html
以下の論文の宛先が「私の先輩編集者の加藤好雄さん」を偲んで書かれたもので、今頃見て、びっくり仰天している。
加藤さんは、2006年新年早々、若く旅立って行った。
加藤好雄さんは東京都立大学法学部の出身で、沼田稲次郎教授・籾井常喜教授の指導を受けて、労働旬報社に入社後、「労働法律旬報」誌の編集長を長年務めた(1970年代から10年ぐらいか)。この間、出版労連の社会科学共闘のメンバーに加わり、労働組合活動を行っていた。私は後輩として「出版労働者は東京都の教師並み賃金を勝ち取ろう」と話し合っていた時期だ。
その後、ジュニア版編集担当になり、その後の経過はわからないが(編集子はシーアンドシー出版へ)、晩年になって「賃金と社会保障」を別会社として請けて編集・制作をしていた。残念ながら、中年期になって病に襲われ、寒い時期に、金町の葬儀場でお別れした。
猿田さんは、「追悼文集」ではなく、自らの論文のTOPに自らのアイデンティティの所在として、加藤さんの偲ぶ文を書かれている。長いがこの部分だけでも掲載した。
社会民主主義型福祉国家・社会と日本の労働運動…一スウェーデンを素材として-
中京大学経営学部、「中京経営研究」、2006年09月01日。
はじめに
(1)日本は「福祉国家」か
(2)「福祉社会・スウェーデン」から日本の労働運動が学べること
1.日本とスウェーデンの市民生活
2.「企業社会・日本」と「福祉社会・スウェーデン」.
3.格差社会・平等社会と労使関係
(3)福祉国家・社会への批判と憧れ.諦め
(4)「社会民主主義型福祉国家・社会」を否定して日本の労働運動は前進できるのか
(5)「スウェーデン型福祉国家・社会」への期待
おわりに
キーワード:社会民主主義型福祉国家、スウェーデン、企業社会、新自由主義、日本の労働運動、中国労働運動
はじめに
2006年1月14日(土)18時58分、突然、「加藤好雄
編集長が、1月14日に永眠されました。」とのファックスが飛び込んできた。入院されているとは聞いていたので、心配はしていたのだが、まさかという思いであった。私と加藤さんは、深い付き合いがあるわけではない。しかし、かなり以前から原稿依頼があり、「いずれ書きます」と延ばし延ばしになっていた。2年ほど前の、2004年4月30日のファックスには次のように書かれていた。「猿田先生、連休に入ったところで恐縮です。福祉国家の論じ方/賃金制度から詰めるか、社会制度から詰めるか、くくって《賃金論の隘路と社会化戦略》。草稿も、ご奮闘いただきたく、お願い致します。目鼻をつけていただけると有難いです。トヨタの賃金制度の研究レポート掲載の用意、いつでも可です。これもタノミマス。
賃金と社会保障、加藤好雄」
『賃金と社会保障』誌は、大学院生の時代にゼミの仲間と調査報告を書いて以来、その後ほとんど論文を書く機会はなかったのだが、私にとっては大変身近で、多くを教えられた貴重な雑誌であった。学会の折りや文書で時折原稿を依頼された当時、私は経営学研究科長の任についており、また、社会政策学会や北ヨーロッパ学会の全国大会の開催などもあり大変忙しく、今日に至るまでその約束を果たせないできた。存命のうちにと思いつつ誠に申し訳ない気持ちで一杯である。ただ、トヨタ研究については「シリーズ・トヨタ研究」を、若い研究者の協力を得て、2004年6月上旬号の(その1)から2006年2月下旬号の(その7)まで続けることができ、少しは約束が果たせたかなと思っている。
加藤さんから依頼のあった「労働力再生産費の社会化」、「賃金・所得の社会化」については、私が黒川俊雄先生に学んでいた大学院時代以来の久しい頃からの思いがあり、それが現在の「スウェーデン研究」に繋がっている。また、福祉国家については1992年にスウェーデンを旅行し興味を持ちはじめて以来のテーマであり、何らかの形で論文にしたいという思いは強かった。加藤さん亡き後も、このテーマを忘れず研究・執筆を続けたいと思っている。本稿は、加藤編集長を偲びつつ、「社会民主主義型福祉国家・社会と日本の労働運動」への現在の思いを書いてみたい。とは言っても、私は経済理論の研究者ではない。専門は労働問題や労務管理論である。なかでもトヨタ研究がメインテーマでありスウェーデン研究がもう一つの研究テーマである。福祉国家を論ずるに充分な研究の準備がないことを承知で、自己の国内外の調査・研究と愛知労働問題研究所などでの様々な経験をもとに、加藤さんを偲びつつ「福祉国家」への私の思いを綴ってみたものである。(中略)
《付記》本稿は『賃金と社会保障』に掲載する予定であった。しかし、最後になって新編集長から丁重な「掲載できない」旨の電話を頂いた。「加藤好雄前編集長は、こんなことは考えておられなかったと思う」、という趣旨のことが一番心に残っている。確かに、日本や世界の現状をみていると、いまさら社会民主主義的福祉国家か、と思われる人も少なくないことは本文中にも指摘した通りである。しかし、それでもスウェーデンなどのように中道左派の労働運動や政権を目標とする以外に、日本の現在の混迷を抜け出る道はないのではないか、というのが筆者の思いである。本論文が加藤前編集長の追悼論文として相応しいかどうかは分からないが、これで彼との約束を果たすこととしたい。若干の文言の修正を除いて、そのままを掲載した。
《付記》の判断は、編集者の個性の問題なので、やむを得ないと思う。
編集子は、加藤さん亡き後に、何もできなかったので、以下にUPし読めるようにした。
「研究ノート」には、中林賢二郎著『世界労働運動の歴史』(上、1965年)(中略)にはスウェーデンなど北欧の記述はほとんどない、と書かれているが、「社会民主主義型福祉国家の論文」で一番ケ瀬康子さんの「ことにスウェーデンの場合には、少なくとも1970年代までは、日本においてはほとんど注目されていなかった」と書いて引用しているので、時代的限界の問題ではないかと思う。
この時代的限界を突破する論文が、以下の論文ではないかと思い、「それぞれの労働組合運動史 3――猿田正機さん(中京大学名誉教授)の問題提起――論文・リスト」に掲載したので、是非お読みください。
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/roudou/sorezorenoroudou-3.htm#saruta2017-12-03
研究ノート:「福祉国家」と日本の労働運動――「福祉国家・スウェーデン」を素材として、中京経営研究第9巻第2号、2000年2月。
社会民主主義型福祉国家・社会と日本の労働運動 : スウェーデンを素材として、 猿田 正機、中京大学経営学部、「中京経営研究」、2006年09月01日。
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