共同通信によれば、昨年のストライキ件数は何とわずか85件。1974年には9581件であったから、100分の一以下である。
「連合化」のプロセスは、非正規労働者・派遣労働者を増やし、実質賃金や社会保障を後退させ、一部上場大企業労働者のみに貢献する「企業内組合化」を促進した。
国民的には「反原発運動」を抑制し、「沖縄・福島・新潟」などの地域社会の崩壊を許す行動を行っている(新潟県知事選挙で、親原発派の応援に連合会長が登場していることなど)。
労働社会学研究者の木下武男さんは<[戦後労働運動「敗北」の総括]、木下 武男、特集 戦後七〇年をふり返る、 葦牙 ・「葦牙」の会編、A5判、2015年7月、「季刊葦牙」41号>を執筆して、労働組合運動の新生へのプロセス以下のように書いている。
木下武男のページ
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/kinoshita/index.html
新しい労働組合運動、総がかり労働運動をめざすユニオンリーダーの登場を願っている編集子としては、次の世代に残すべき提言だと思っている。
はじめに
第一章 総括の視点
本当の労働組合とは
「労働者間競争の規制」戦略
総括の視点――企業主義批判と政治主義批判
第二章 戦後労働運動「五回の敗北」
1 「第一期」1945年~50年――産業別労働組合の挫折
左派ナショナル・センターの自壊
ユニオニズム確立の最大の可能性
2 「第二期」1950~60年――民間大企業争議の敗北
総評の結成と日本的労使関係の形成
民間大企業争議の敗北
3 「第三期」1960~75年――労使癒着の労働組合の席捲
労働運動の跛行展開
企業主義的統合と労使癒着の労働組合
75年の労働運動の「暗転」
4 「第四期」1975~89年――総評解散と対抗的ナショナルセンター
官公部門の労働運動の後退
5 「第五期」1983年~現在――展望の欠如
第三章 衰退の淵から新生を遠望する
労働者の競争激化とユニオニズムの不在
労働者の組織化による新生
日本の労働運動の新生は困難ではあるが、きわめてシンプルである。この大多数の未組織労働者を地道に組織化することにつきる。しかし、たんなるこれまでの労働者の組織化でも、合同労組運動の再現でもない。労働運動の新生とは、過去と断絶した労働組合を新たに創造することだ。未組織労働者という労働組合不在の広大な荒れ野に、ユニオニズムの花を咲かせる大きな野望とチャレンジなのである。
業種別職種別ユニオン
ユニオニズムはこれまでにない本当の労働組合だが、ここでは「業種別職種別ユニオン」と呼んでおこう。業種別職種別ユニオンの事例はまだほんのわずかであるが、威力は実証ずみである。
二〇〇〇年七月二日、関西の生コン関連四組合のストライキが決行された。その日から一三九日間におよぶ長期のストライキを打ち抜き、一一月一七日に解除された。大阪駅前の「梅田北ヤード再開発工事」を始め、トップゼネコンの三つの大現場がストップし、大阪府下の八割の建設現場の工事が止まった。日本の労働運動の長期間にわたる後退過程のなかで、突如としておきた画期的なストライキだった。職種別結集という小さな力が産業をとめることができたのだ。また、二○○四年、国民の支持を受けながらストを決行したプロ野球労組も業種別職種別ユニオンとみることができる。プロ野球という「業種」におけるプロ野球選手という「職種別」労働者の労働組合だ。
さて、関西の建設産業のストライキの中心となった全日建連帯労組関西生コン支部は、実は、日本の企業別組合とは無縁な、ヨーロッパ型の産業別労働組合に近い組合とみることができる。この大ストライキから労働運動が引きだすべき教訓は大きい。第一章でみてきた労働者同士の競争を規制する原理をそなえているからだ。日本のこれからの労働運動に不可欠な「労働者間競争の規制」戦略はこの原理の受容によって確立することができるだろう。
この原理とは、十分に検討してきた「共通規則」と「集合取引」である。関西生コン支部は、個々の会社との企業内交渉ではなく、生コン業界を相手にする集団交渉を追究し、一九七三年、参加企業一四社との間で実現した。ヨーロッパにおける産業別労働協約体制という労使関係が、日本の小さな業種で実現した画期的な出来事だった。
そして、一九八二年に、労使で確認した「三二項目協定約束事項」の「業種別・職種別賃金体系」のなかで、職種別賃金要求を明確にした。今日まで会社ごとの賃金格差のない統一賃金を維持してきている。
このようにみてくると、業種別職種別ユニオンは、ジョブ型労働組合でもあることの理解が重要になってくる。「共通規則」は競争を規制する基準であった。それは企業を超えて設定されなければならないので、職種別というジョブの基準以外にはありえない。関西生コン支部は、生コン労働者の職種別賃金として「共通規則」の股定を可能にした。さらに「集合取引」も生コン業界を相手にした集団交渉として達成した。だから、日本型労働組合が年功貸金で「共通規則」を、企業別組合で「集合取引」をそれぞれ実現できなかったが、関西生コン支部はこれを乗り越えることができたのである。
日本の労働運動は、だから、たんなる再生ではなく、新しい労働組合を創造する新生でなければならない。この道は二つある。一つは、未組織労働者を、組織化をつうじて職種別の視点から結集することである。とくにワーキングプアを貧者の大軍とみることなく、職種別結集の可能な未組織労働者として見る目が労働組合運動に求められている。そして、その組織化をつうじて業種別職種別の結集体を作りあげることである。
あと一つは、いまある産業別全国組織・地域組織や、合同労組、コミィニティ・ユニオンの業種別部会や業種別共闘を、職種の視点で設計し直すことだ。合同労組やコミィニティ・ユニオンのなかにある業種別部会を、地域的な結集や企業別組合の集合ではなく、徐々に職種別の結集軸に発展させていく努力が求められる。
そして、未組織労働者の職種別結集と、既存の合同労組や コミィニティ・ユニオンの業種別部会の再編成とが合流する。つまり、業種・職種を結集軸にした合同運動を大々的に展開することである。この合同運動は、実はイギリスやアメリカの一般労働組合(ジェネラル・ユニオン)を日本に創り出すことを意味する。
一般労働組合はヨーロッパの大産別方式の産業別労働組合とは違うが、おなじ「労働者間競争の規制」の原理を有している。一般労働組合の内部には多くの業種別組織(トレード・グループ)が存在し、ここが各業種の経営者団体と団体交渉をおこなっている。
つまり日本の労働組合の新生は、業種別職種別ユニオン運動をジェネラル・ユニオンの構築を見通しながら展開することだ。「業種別」の「業種」とはジェネラル・ユニオンの「トレード・グループ」に相当する。そして「集合取引」としての「業種別」の団体交渉を目指すことを意味している。
「職種別」は「共通規則』を可能にする職種別賃金を表現している。このように業種別職種別ユニオン運動をあらゆる業種で展開し、それらをユニオンの合同運動をつうじてジェネラル・ユニオンを創造する。このことによって初めてこの国にユニオニズムが胚胎することになるのである。
日本の働く者の困難を切り開くには、この業種別職種別ユニオンの展開とともに、本稿ではふれられなかったヨーロッパ型福祉国家を日本で目指すことだ。福祉国家は、なにか国家の転換という国家論のレベルではなく、ユニオニズムの「法律制定の方法」つまり労働組合の政策制度闘争の発展の延長線に姿を現す。労働組合が社会政策・社会保障の要求にもとづいて政府に対して大々的に運動を推進していくことだ。今日、貧困と格差、雇用不安、過酷な労働におおわれている日本の労働社会は、ユニオニズムの構築と福祉国家の確立によって再生していくことができるだろう。
いずれにしてもたやすい道ではない。ナショナル・センターの支援や労働運動ボランティアの参加など膨大なリソース(資源)の集中が不可欠だろう。
かつて、労働組合を移植し、根づかせるために労働組合期成会が一八九七(明治三○)年につくられた。アメリカでAFL(アメリカ労働総同盟)のオルグの資格を得て帰国した高野房太郎や、アメリカに渡って労働組合を知った片山潜らが幹事となった期成会は、職種別ユニオンの結成を支援する団体だった。今日、労働組合期成会のような団体が必要かどうかは議論があるだろう。だが、戦後労働運動が本当の労働組合をついに根づかせることができなかったという今日の時点にたてば、その頃と同じような時期にあり、同じような努力が必要とされていることだけは確かなことである。
以下の案内も「木下武男のページ」にUPした。
▽追記1(2016.10.09)木下武男さんの「業種別職種別ユニオン」と関西生コンについて論究したものがあります。
『季刊・労働者の権利』(315号、2016年7月発行)、日本労働弁護団の機関誌。
特集Ⅲ 労働運動の新展開―ユニオン運動の模索―
① 業種別職種別ユニオンの構想 木下武男 労働社会学者(元昭和女子大学教授)
② コミュニティ・オーガナイジングとユニオン運動 清水直子 プレカリアートユニオン執行委員長
③ 「最低賃金大幅引き上げキャンペーン」と「新しい質をもった労働運動」の構築と「反貧困運動の再起動」 河添 誠 「最低賃金大幅引き上げキャンペーン」委員会事―務局メンバー/元首都圏青年ユニオン書記長
④ 労働相談から職場の合同労組支部建設へ 須田光照 全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合書記長
http://www.ak-law.org/column/1799/
▽追記2(2016.10.09)――PDF版で全文読めるようにした。
【記念講演】関生労組の歴史と日本労働運動の未来/木下武男(元昭和女子大学教授)
『コモンズ』93号(2016.03.10)目次
http://com21.jp/modules/cpress/archives/12351
http://com21.jp/modules/cpress/archives/12758
▽参考(2016.10.10)夢もなく怖れもなく 労働研究50年 熊沢誠のホームページ
その8(2016年2月6日)「社会的労働運動」としての連帯労組・関西地区生コン支部
http://kumazawa.main.jp/?p=434
▽追記(2016.11.01) 以下の論文を更新UPしています。
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/kinoshita/index.html
業種別職種別ユニオンの構想◆特集Ⅲ 労働運動の新展開―ユニオン運動の模索―、木下武男 労働社会学者(元昭和女子大学教授)、315号、2016年7月発行、日本労働弁護団の機関誌。
連帯労組関西生コン支部の歴史と日本労働運動の未来、木下武男、『変革のアソシエ』(24号)『変革のアソシエ』編集委員会、社会評論社、2016年4月15日発行
同一労働同一賃金を実現するジョブ型世界◆第一特集「各政党に問う、同一労働同一賃金」、木下武男(労働社会学者/元昭和女子大学教授)、『POSSE』(vol.31)、2016年6月15日発行、堀之内出版
「一億総貧困化社会」と「同一労働同一賃金への道」◆特集:下流社会の深淵と「政治」/ブラック社労士の蔓延、木下武男、『POSSE』(vol.30) 2016年3月20日発行、堀之内出版
ワーキングプアからユニオンへ特集◆貧困の連鎖を断ち切る、木下武男、月刊まなぶ (第142号)、労働大学、2015年10月号