ショップ・スチュワードに注目していた出版物――中林賢二郎さんのページ更新
3年前になるが〈2013年4月15日 (月)〉、「ショップ・スチュワード、サンジカなどヨーロッパの労働組合を紹介――中林賢二郎さんのページ更新」をUPしたが、毎月、10人ほどROMで入ってくる人がいる、
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-1247.html
WEB上の検索でも、「ショップ・スチュワード情報」は、ほとんどUPされていない状況にもよるだろうが、日本の労働組合運動の再生を願っている人には、「職場に労働運動を形成する」ヒントとして「ショップ・スチュワード」があるのではないかと考え始めている――だから読み手が生まれていると編集子は考えている。
忘れていたわけではないが、故中林賢二郎さん(法政大学)が1980年初頭にイギリス留学時代のレポートが1冊の単行本になっている。
書名は『イギリス通信――経済危機と労働運動』(中林賢二郎著、学習の友社、新書版、1981年9月25日)だ。
その中でもショップ・スチュワードが「職場委員」という項目で書かれているので、サイトにUPした。
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/nakabayasi/shopstewards.html
読み返してみると、その量的多さにビックリした。
「一九七一年の推定では、全イギリスで二五万から三○万におよぶ職場委員が選出されており、七三年にはこれが組合の存在する全経営の八○パーセントで活動しているものと推定されています。」
イギリスの人口は2013年時点で推計6,410万人、日本のほぼ半分。
人口に占める労働者の割合は、今特定できないが、日本社会なら「50万人を超える職場委員」がいることになる。
その職場委員は、以下のような人たちだという。
[一九六○年代半ば頃の調査では、その典型は、「四五歳の熟練工で、会社内でも組合でも『出世』する気のない労働者」だとされていましたが、その後の調査によると、もっと若い層が選出されるようになっており、最近、シェフィールドの機械産業労働者についておこなわれた調査では、四○歳以下がその半数を占めていたといわれます]。
また職場委員像として、以下のようにタイプ化して書かれている。
[第一は、組合運動の原則を身につけ、組合員からも信頼されて、職場労働者をひっぱっていくような、いわゆるリーダー型職場委員です。かれらは原則を身につけているだけでなく、休憩時間には職場労働者の誰とでも話をし、ジョークをとばし、ゲーム(チェスなど)もすることで、職場労働者の全員に親しまれ信頼されていると同時に、こうしているあいだに、組合員の要求や意識の程度を敏感にとらえてゆく能力をもった人たちです。
第二は、原則によって行動し、リーダーシップを発揮するのでなく、職場労働者の平均的な意見に従っているだけの職場委員です。
第三は、状況しだいでどのようにでも言動を変える、信頼のおけない職場委員です。
第一の型がもっとも職場委員らしい、また成果をあげることのできる職場委員です。
このリーダー型職場委員は、民間企業の現場にもっとも多く、事務労働者や公務員では第二の型の比率がふえることも、調査の結果明らかにされています。
職場委員のすべてがリーダー型であるわけではなく、第二、第三の型をふくんでいることは、職場組織が企業内の組織であるだけに、重要な問題をのこしています。
というのは、リーダー型職場委員でさえ、ときには経営側との交渉に深入りしすぎて、組合員から浮きあがり、企業側のとりこになって、職場労働者の利益を裏切る例もでてきているからです。
そして、今日では民間企業だけでも、五○○○人、公務・公企体をふくめると一万人以上の常任職場委員(有給で、仕事をはなれ、職場委員の仕事に専念する。その大部分は、職場委員でつくられる職場委員会の代表)がいるといわれるだけに、職場労働者がうっかりしていると、企業側が手をまわして、職場委員会と組合とを切りはなし、これを企業側のとりこにしてしまうという可能性は、おおいにありうることなのです。]
故中林さんは、「日本の組合とイギリスの組合」なかで以下のように、イギリスの労働組合運動をとらえている。
[イギリスの労働組合運動にとって伝統的な多数組合制(いくつもの組合が同一企業の労働者を組織していること)や地域別・産業別、もしくは地域別・業種別の団結の原理(そうしたいくつもの組合に分属する労働者が、企業の枠をこえて団結し行動すること)]
[企業の枠をこえて団結し、同一職種や同一産業の労働者の賃金・労働条件を守る――これが労働組合だという意識・常識が、労働者のあいだにひろく根づきました。]
[なぜイギリスでは日本とちがってこうした企業の枠をこえた組織が発達し、今日なお力をもっているのでしょうか。
最大の理由は、一九世紀の六○~七○年代にイギリス労働組合運動が確立し、運動をささえる伝統、意識、習慣が形成されたことにあるものと思われます。]
このような伝統と産業の変化などに対応していると「職場委員」の前に書かれている。
さて35年前のレポートだが、このような「職場委員」(ショップ・スチュワード)は今どうなっているのか、知りたいものだ。
▽追記:13/04/15➡16.05.26(本文をスキャンして、このページでも読めるようにした)
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/nakabayasi/shopstewards.html#shopstewards-2
イギリスのショップ・スチュワード――イギリス労働組合運動における職場組織と職場委員
現在(2013年)の労働組合組織率は、「17.9%(前年比0.2ポイント減)と、昭和22年の調査開始以降、過去最低を更新した」と報じられているなかで、その労働組合員の7割が大企業社員・公務員だ。
大部分は連合加盟の単産だが、ヨーロッパのように複数の産業別組織が地域にあるわけではなく、職場における労働条件の交渉や人員配置について、だれがになっていくのか――日本の組合活動家も、昔は勉強していたようで、今はあまり聞かれなくなった。それは団体交渉や労働協約闘争がなくなった組合しか見えていないからだ。
1800万人に及ぶ非正規労働者をどのように組織するか、これが時代のテーマだし、「大企業官制高地論」を昔から信じていなかったが、未来に「新しい産業別・地域別のユニオン」ができることを期待している。
これからは、地域を軸に職場に攻め上るしかない。
その暁に登場してほしい話がこの論文だ。
中賢さんは『現代労働組合組織論』(1979年刊)を書いているが、それ以後にイギリスにおける職場レベルの担い手=ショップ・スチュワードshop stewardについて、大原社研の室報に書いているので、ここに再現したい。
柱立ては、
その歴史
組合とショップ・スチュワード
ショップ・スチュワードが獲得した諸権利
現在のショップ・スチュワードの任務
ショップ・スチュワードのタイプ
スチュワードの戦術
合同協議制とショップ・スチュワード
プランにおけるスチュワードの組織
組合との関係
ショップ・スチュワードの企業別組織
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