« 神保町シアターに行ってきた――名画座訪問2 | トップページ | 藤岡惇 退職記念文集――このような出版を考えてみませんか »

2013年10月23日 (水)

大企業組合としてフォーマル化したインフォーマル組織

  ▽追記:ある編集者のブログ〔2016年1月24日 (日)〕
    日本は「協調組合主義」と決別を=ノーベル経済学賞受賞者・フェルプス氏(アメリカ)

  http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-19aa.html


 「どこに消えた『サスコミ』グループ――インフォーマル組織物語Ⅸ」[20121017日(水)]で書いた情報の後、いくつか調べてきたが、やっとその事実が出てきた。

http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-d4b4.html

 

 1960年代以降の高度成長期から企業・労働幹部が一体になったインフォーマル組織。そのメンバーは、現在では一部は経営陣に、残りは「連合」の企業連幹部についていることはわかっていた。前者は明治乳業やオリンパスの社長たちだ。後者は、「連合」の担い手として、企業連を握り、『サスコミ』グループはフォーマル化して、表(おもて)の富士政治大学で次の世代の育成に当たっている。当時からこの両者はダブっていた(東京都電力総連、凸版印刷労働組合、新日本製鐵住金八幡労働組合、日本電子連合労働組合など)。

 

 今回は、日本各地でフォーマルな企業別組合になった一覧表を、以下につくった。

 

大企業労働者(多くの非正規労働者を含めて)を統合し、「物言わぬ民」として「ナショナルセンター・連合」を国民の願いから乖離させ、反原発を抑圧するなど反民主主義を推進する部隊。そして青年層を富士政治大学でみずからの後継者づくりに乗り出している。

 

  「Ⅰ 平成25年度の事業計画について」(公益財団法人 富士社会教育センター)

  http://www.e-fuji.or.jp/file01/h25keikaku.pdf

 

 財団の3つの使命と役割<①オピニオン組織としての役割(民主的共同社会システムによる社会改革の実践の検討と提案)②生涯学習社会の充実に向けての新たな取組み③自由にして民主的労働運動の発展とリーダーの育成>を再確認し、新たな取組み、新たな教育支援の充実に努めます。

 ・北海道・東北事務所

幹事・推進委員組織:東北電力総連、UAゼンセン宮城県支部、日本郵政グループ労働組合東北地本、交通労連東北総支部、建設連合宮城、JR東日本ユニオン、東北電力労働組合、ユアテックユニオン、東北電気保安協会労働組合、東北発電工業労働組合、通研電気工業労働組合、藤崎労働組合、ヨークベニマル労働組合、仙台銀行新労組、第一貨物労働組合、三八五労働組合、林精機製造(株)労働組合、東芝労働組合本社支部東北地区、東北電力労働組合宮城県本部、本山製作所労働組合、IHI労連相馬支部

 

 ・東京事務所

IHI労連東京支部、旭硝子労働組合、カスミグループ労連、基幹労連東京都本部、共同印刷労働組合、建設連合関東地方連合会、コニカミノルタ労働組合、すかいらーくグループ労連、セイコーインスツルメンツ労働組合、全矢崎労働組合、千葉友愛連絡会、電源開発関連労組総連合、東亜道路労働組合、トーカン労連、東京エネシス労働組合、東京計器労働組合、東京都電力総連、栃木友愛連絡会、凸版印刷労働組合、トッパン・フォームズフレンドシップユニオン、日産労連東京地協、日本原子力発電労働組合、日本梱包運輸倉庫労働組合、日本電子連合労働組合、三菱自動車工業労働組合、三菱ふそう労働組合、UAゼンセン茨城県支部、UAゼンセン東京都支部、UAゼンセン山梨県支部、オリエンタルランド・フレンドシップ・ソサエティー

 

 ・東海事務所

基幹労連愛知県本部、基幹労連三重県本部、全トヨタ労連、中部電力総連、電機連合愛知地協、日産労連愛知地方協議会、日本郵政グループ労働組合東海地本、三菱自動車工業労働組合岡崎支部、UAゼンセン愛知県支部、UAゼンセン静岡県支部

 

 ・関西事務所

イオンリテールワーカーズユニオン、大阪ガス労働組合、川崎重工労働組合、関西電力労働組合、かんでんエンジニアリング労働組合、基幹労連大阪府本部、交通労連関西地方総支部、コーベヤ労働組合、ダイキン工業労働組合、ダイハツ労働組合、西日本旅客鉄道労働組合、パナソニックグループ労働組合連合会、UAゼンセン大阪府支部

 

 ・九州事務所

沖縄電力労働組合、九州電保労、九州電力総連、九州電力労働組合、九電工労働組合、九州旅客鉄道労働組合、交通労連九州地方総支部、西部ガス労働組合、佐世保重工労働組合、JX日鉱日石金属労働組合佐賀関支部、新日鐵住金化学労働組合、新日本製鐵住金大分労働組合、新日本製鐵住金八幡労働組合、ダイエーユニオン、中国電力労働組合、西日本プラント工業労働組合、日産労連福岡地方協議会、パナソニックシステムソリューションズ労働組合、福岡国税労働組合、三井三池製作所労働組合、三菱重工労働組合長崎造船支部 

 

 富士政治大学は、1970年代から1980年代の「総評全金つぶし」などの担い手を育成したことなどで有名だったが、横浜市長になった中田と「松下政経塾」の関連を追及した横浜市立大学の「平智之」さんがインターネットに発表している、以下の文章を読んでほしい。

 

 松下政経塾と「中田人脈」の研究 (3)、2003710日、平 智之(商学部教員)

http://www.tomocci.com/sinpo/report/nakada.pdf

 

 以上、戦後日本の労働運動の歴史的系譜から由来する、やや複雑な前置きが長くなったが、本題に入ろう。まず、本連載の(1)で紹介した松下政経塾のホームページなどをブラウズしていると、私には何か別の「政治的教育機関」がだんだん思い当たってきた。それは何かというと、労働運動の活動家や研究者などにしか知られていないが、旧同盟系の「富士政治大学校」という、静岡県御殿場市にある労組幹部の養成学校である。この研究をした文献まで当たる余裕がなかったので、私の『横浜市史』編集事業での同僚、三宅明正氏(千葉大学)による、以下の簡潔な紹介に負うことにしよう。

 富士政治大学校は、一九六八年八月に財団法人として認可された「富士社会教育センター」が翌六九年一〇月に開設した機関である。第一期の「特別労働講座」から、同盟系ならびにJC系【金属労協のこと。同盟加盟の鉄鋼・金属・自動車・電機・造船などの単産が別に組織した国際的労働団体-引用者注、以下同じ】の労組が若手の職場活動家を派遣している。同校では当初から「活動家養成講座」や「幹部研修講座」が開設されている。そこでは「進歩的な市民を発掘し、これを闘う民主主義者に養成する」ことが目的とされ、その「最大の相手は共産主義に立つ人々」とされた。……

同校には創立者西村栄一【創立当時の民社党委員長】の「遺訓」をもとにした『三訓五戒』が掲げられ、「己をすてよ」「けじめをつけよ」のスローガンのもとに、「評論家的民主主義者ではなく行動的民主主義者を」育成することが強調された。実際の講座を見ると、「かけあいコール」で「絶叫」による「興奮」を味わい、参加者は「演壇」「訓練」で批判派を実力で「撃退」する「訓練」を受けた。

 一九七〇年代前半に同校の講座は急速に数を増している。開催回数は一九七一年七回、七二年三一回、七三年五六回、七四年六七回、七五年八〇回で、以後毎年一〇〇回を超えた。

……

 さらに一九八〇年代になると、富士政治大学校での労働講座は企業の「研修」名義で行われることが多くなった。経費は会社持ちの出張扱いにされ……【別の団体名義の】「研修」とされたのは、外部の批判を避けるためであった……〔三宅明正「インフォーマル・グループ小史」、『市史研究よこはま』第14号、2002年、3637ページ〕

 そして、三宅氏は事例として、横浜市にも大事業所を有する複数の造船重機企業の同校への社員派遣の具体例もあげている。富士政治大学校の場合は、大企業の本社や工場の中堅層を労組幹部へと、短期間で大量養成をめざしている点やファナティックとも思える政治訓練を実践している点で、松下政経塾が政財界のエリート候補生を少人数のオーソドックスな授業で中長期で育成するという、目的やスタイルの違いは少なくない。しかし、寝食を共にした合宿制の研修方式を採用し、ともに創立者の精神主義的なスローガンを掲げて精神修養を重視し、単なる「座学」ではなく現場や地域での実践的な研修や自己表現と他者の論破を重視する教育方法、さらには「行軍」のような肉体・精神練成まであるところが、私には10年置いて設立された両校の共通性が非常に感じられたのである。

 そして、やはり両校に大きな人的な連続があることを決定的に裏づける証拠を探し当てたので、以下で明らかにしよう。すなわち、松下政経塾の役員には、幸之助翁の嗣子の松下正治・理事長(松下電器産業・名誉会長)の下に、キラ星のごとくの有名かつ有力な財界人、および意外にも大学界の大物教授が各種の役員に就任している(政治家はむしろ少ない)。

 

そのなかでやや異色のグループが、旧同盟〔正しくは旧総評―編集子〕の最有力単産の1つの鉄鋼労連の委員長や前出の金属労協(JC)の議長を長年務めた宮田義二氏が「相談役」を、その鉄鋼労連での後継者で連合の前会長を務めた鷲尾悦也氏(現・全労済理事長)、および鷲尾会長の「女房役」の事務局長から後任の連合現会長に昇格した笹森清氏がそれぞれ「評議員」を務めているという、「連合トリオ」の存在である。

 

 現在は、著名大企業内に「敵」がいなくなり、「連合」の主たる担い手になっている(『もう一つの鉄鋼労働運動史―人間らしい働き方を求めた闘いの記録』、発行NPO法人労働者運動資料室、発行者 鉄鋼労働者協会など)が、カンパニー・ユニオン化した戦後労働組合運動の集大成としての「労働組合名」だ。

  http://www5f.biglobe.ne.jp/~rounou/myweb1_270.htm

 

 その現状については、日本の労働問題研究者の奮起を期待したい。若手研究者の民間企業労働組合幹部への聞き取り(オーラルヒストリー)の視点に過不足がないのか。

 ブラック企業へ物申し、非正規労働者の組織化に奮闘している青年たちにも、これらの一つひとつの「労働組合乗っ取りの過程」を学んでほしい。

 

  ▽参考
  『金杉秀信 オーラルヒストリー』、金杉秀信著、評者:山本 潔、大原社会問題研究所雑誌 No.627/2011年1月
   http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/627/627-05.pdf

  

八幡製鉄所のインフォーマルグループ――インフォーマル組織物語Ⅷ芹澤寿良のページ)

    http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-0d95.html

  『ニッポン丸はどこへ行く』が解明したこと――インフォーマル組織物語Ⅵ-2
   http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-f924.html

 

 ▽高橋祐吉、『企業社会と労働組合』「第3章 インフォーマル組織による組合支配構造の分析」、労働科学研究所、1989年。[原題「労働組合運動のガン=インフォーマル組織とどうたたかうか――その支配構造と克服の展望」、高橋祐吉、『日本の労働組合運動 5 労働組合組織論』大月書店刊 1985年]。
(PDFにできていませんがぜひ読んでください――編集子)。

   追記:2013:11:19

 ▽「インフォーマル組織の過去・未来」をUP――現代労働組合研究会のHP
  http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/post-82a1.html

 

 

« 神保町シアターに行ってきた――名画座訪問2 | トップページ | 藤岡惇 退職記念文集――このような出版を考えてみませんか »

インフォーマル組織の過去・未来」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 大企業組合としてフォーマル化したインフォーマル組織:

« 神保町シアターに行ってきた――名画座訪問2 | トップページ | 藤岡惇 退職記念文集――このような出版を考えてみませんか »

無料ブログはココログ