ネッスル日本の経験――インフォーマル組織物語 Ⅲ
華麗なるテレビCMの裏側で
今回は、インスタントコーヒーの製造・販売会社で、1960~70年代の高度成長社会で、テレビをはじめ斬新なCMで一躍、日本の消費者の心と嗜好をつかんだ外資系のネッスル日本。
この会社にも、日本人の昇進昇格的人生で躍らせて、インフォーマル組織が暗躍していた。
私たちは、『雪とふきのとう――雪印の陰謀を追って』(門倉 訣著、労働旬報社、1981年、その後、第一次争議を解決後出版した『自立する労働運動: 知られざるインフォーマル組織』、吉村宗夫著、労働旬報社、1983年の2冊)を出版し、社会的に警鐘を鳴らし続けていたときに、ネッスル日本労組東京のSさんが訪ねてきた。
「どうもうちの会社もインフォーマル組織が暗躍し始めたようだ」という相談だった。
その後、今日までネッスル日本の労働者のたたかいが始まっている。以下にWEB上に読めるものを書いておく。
国連人権委へのレポート――「国連人権委員会へのカウンターレポート」(2004年6月30日付)の全文です。
多国籍企業に国際労働基準を守らせるたたかい ネッスル日本労働組合
http://www.tcn.zaq.ne.jp/njlu/page100.html
ネッスル電気主任技術者解任等
昭和57(ワ)650 昭和63年06月07日 静岡地方裁判所
四半世紀に及ぶ最悪の労働争議(2008年の「週刊金曜日」10/13日号)より
ネスレ日本は八〇年代初頭、当時二〇〇〇人以上の組合員を擁し、賃金・権利闘争に底力を発揮したネッスル日本労組を嫌い、会社派による乗っ取りを画策、これに失敗すると八三年、御用組合(第二組合)を旗揚げさせた。組合の分裂以降、会社は、利益誘導や脅迫などありとあらゆる手段を使って第一組合員への脱退工作を仕掛ける一方、脱退を拒んだ労働者には職場八分や暴力、賃金・仕事差別などさまざまな人権侵害を繰り返し、第一組合を一〇〇人未満の少数派に追い込んだ。
http://blogs.yahoo.co.jp/cyoosan1218/40534669.html
【保存版】いま島田工場で
(2006年4月)
島田工場の不当労働行為をリアルタイムでお伝えします
http://www.tcn.zaq.ne.jp/njlu/page158.html
ブログ「薔薇、または陽だまりの猫」で2000年代の最高裁判決までの経過参照。
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/s/%A5%CD%A5%C3%A5%B9%A5%EB
Sさんは、当時、東京争議団運動の中核になった沖電気争議をよく知っていて、70年代の東京・北区での日本製紙争議を家族が直面した経験がある誠実の人だった。何回か話していると、どうしても労働組合を残したいという強い思いを持っていた。
Sさんの話を総合的に読み取ると、すでに東京、神戸、霞ヶ浦工場、島田工場、日高工場で争奪戦が始まっていた。
どのように対応するか、東京レベルの組合執行委員会で、「インフォーマル組織のつくられ方、なぜ秘密労務組織といわれているのか、外部の労務屋のビジネス戦略、企業内部の不安材料、外資における企業戦略」などを、自由に話し合った。
そのとき、「ネッスル日本のモノカルチャ・ビジネス戦略をどう思うか」と聞いてきた執行委員がいた。その中身は、インスタント・コーヒーの単品ビジネスへの不安だった。華麗なるテレビコマーシャルの影に、日本人社員には未来への不安が沈殿していた。
当時、多国籍企業という概念が労働組合運動の中では希薄で、その実態についても不明な人が多かった。私は、教育社の新書版で『多国籍企業』(1978年)を書いていた評論家・水沢透さんを訪問し、その実態について、特に日本に進出しているネッスルなどの総合的企業戦略のレクチャーを受けて、その場に臨んでいた。
「わが亡き後に洪水はきたれ」の精神を地で行く、ヨーロッパ独占・多国籍資本の企業ビヘイビア(軍需産業・薬品産業などが著名だった)のすごさと強引さを日本で展開するために、いまインフォーマル組織が登場している、と話した。
Sさんに代わってN副書記長が、「東京レベルで相談できる労働組合運動のリーダーを紹介してほしい」という相談があり、ネッスル日本東京本社(?)がある中央区労協のSさんやニチモウキグナス労組のAさん、同ニチモウキグナス労組の顧問弁護士をやっているBさんをなどの名前を挙げ、会ってみたらどうかと話した。「第一組合」を残す戦略は、実践家に担ってもらった。
その後、N副書記長といっしょに茨城の霞ヶ浦工場を訪問したが、私よりも若い無垢な青年労働者たちの元気さと反比例するように、その後の彼らへの攻撃のすごさを予感し、「身震い」をしたことがある。彼らへの攻撃の事実は、上記の「週刊金曜日」を読んでほしい。
ここからは危ない話。企業への不安を語っていた執行委員数名が、会合のあと私を酒席に誘ってくれた。飲むのも取材のうちと思っていたが、その席にはSさんがおらず、「変だな」という思いがあった。
執行委員たちは、口こもごも職場の変化や見通しを語り、やっぱり「労務屋さんに誘われて学校に行っているものがいる」「見通したとおりだ」と話しかけてきた。
「2軒目に行きましょう」という調子のよいお誘いに、ついつい誘惑されて連れて行かれた場所が新宿歌舞伎町の中の「ゲイのジュータンバーだった」。
「みんなずいぶんお金があるんだな、ネッスルはそんなに金を貰っているのか」、とふとよぎったのは事実で、酒が進むと、ゲイのショーが始まり、パンツにおひねりを差し込んで喜んでいた。しまいには、執行委員代表格のメンバーの一人が「どうですかお一人」という暗示をかけてきた。
「ハッ、とさせられた」。これはやばいぞ、という声だった。
ある先輩から教えられて読んでいた小説家・黒岩重吾の世界に足を踏み込んでいたわけだ。彼の本を読んでいなければ、「危ない世界」へ陥落していた。
その後の話だが、彼らは自らのインフォーマル組織をフォーマル化して組合乗っ取り戦略を発動した。やっぱり金があったのだ。
▽ネッスル日本労組の情報
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-fa49.html
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-bf1d.html
ネッスル日本労組の争議和解 (13.10.05)
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-d993.html
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