インフォーマル組織物語―その2
ある電機産業大手組合リーダーの決断(下)
組合は品川駅近くの一流ホテル内対策会議で全国からの情報を集め、組合三役を中心に整理して、1カ月ほど話し合いをすすめていた。その間、こちらは週1回ほど傍聴者として参加していたが、どうみても背後に組織を持っている人たちではなく、企業内従業員組織で、「意識的に労働組合役員になっている」としか見えなかった。
学生時代、全共闘系のデモに出ていたという三役の一人も、話していると「山手の都立高校出身者」で「私の友人たちレベル」の社会認識だった。
1980年代の本社サラリーマン・SEの技術者・運送関係の労働者を中心にしていた組合執行部だった。いまでいえば「無党派サラリーマン労組」だ。
前回のこちらの質問を補う意味で、1970年代からの大企業における企業別組合の連続する敗北を、別個にY委員長とじっくり話し合った。
1 日産厚木で「7人の組合員の除名解雇」をフォーマル組織になった「日産労組・塩路天皇」の指揮の下で起こっている事件(『青い鳥はどこへ――日産厚木除名解雇事件』、青木慧著)。
2 沖電気争議団(情報化社会に突入するため血の入換え戦略を容赦なく追求する会社側と新左翼活動家も含めた統一争議団ができた経過)の現状と解決後の展望。
3 千代田総行動(千代田区労協を中心に報知新聞・印刷労働組合などが核にたたかかっている東京争議団の運動)の下で解決した「三菱樹脂・高野事件」(『石流れこの葉沈む日々』、労働旬報社刊)のみんなとその後。
4 総評の中の戦闘的労働組合・全国金属が70年代から集中的に狙われた経過を暴露した『狙われた労働組合』(金属反合理化闘争委員会)を編集しているケース。
5 新潟県上越市にある日本ステンレス労組(社会党系)の組合乗っ取り攻撃に、現職の鉄鋼労連幹部が陣頭指揮に当たっている現実。
6 雪印食品・雪印乳業・明治乳業・ネッスル日本の組合壊滅・乗っ取り戦略の現場を見て、消費者サイドに近い食品企業でも、インフォーマル組織の猛威が押し寄せている現状。
7 全造船における三菱造船長崎や石川島分会の敗北による「代々木系のもぐりこみ戦略」について。
8 統一労組懇系の活動は、ほとんど大企業に影響を及ぼしていない現状について。
以上の様な大企業社会における労働組合の現状を解決する労働組合リーダーは、残念ながら日本にはいない、と私が思っていることを話した。
最後に、質問として、「あなた方の現状を会社側はかいかぶっているのではないか」と率直に聞いてみた。そしていまではなく、時間をかけてまた話し合いましょうということになった。
企業内従業員組織だったこともあり、1カ月もすぎたころ組合が重要な情報をつかんだようだ。その会議では、以下のことが書記長さんから報告された。
1 ○月○日、箱根・宮下の富士屋ホテルで彼らの集会が行われる。
2 陣頭指揮にあたっているのは、会社の「番頭」といわれる人だ。
3 参加者のメンバーは、全部は分からないが10名以上、分かった。
4 労務屋の資料はここにある。
5 行動として、全員の写真を撮る配置をする、とその作戦を話した。
私はその労務屋さんの資料を見て。全金八重洲無線(いまもJMIU加盟労組が残っているはずだが)を攻撃した部隊と同じだった。
組合の方は燃え上がってきたが、こちらは不安でしょうがない。
Y委員長から会議後、新橋駅まで一緒に行き、彼なりの考えが明かされた。
「自分たちは組織を持っていません。いたとしても沖電気型争議団になってもたたかうという人はいないと思う。30代の組合執行部メンバーは、サラリーマンです。無理はさせられない」「番頭は、見誤っているというアドバイスは正確です」
「自分は、争議を起こさないたたかいで、会社側に反省を求めたい。賢人と言われている社長に直談判をして、この攻撃をやめさせたいんです。そのときは労使対等原則の宣言をして、委員長を交代する覚悟です」と胸のうちを話した。
私の方は、その前に「“情報化社会に突入する○○○○”という講演をNEC社長の関本忠弘(当時)さんに依頼して、自分たちのスタンスが、労務屋さんの分析と違うぞ、という反撃を考えたらどうか」とだけアドバイスした。
組合は早速、NEC社長の講演を組合員向けに企画し、その報告紙面で、「情報化社会」への急速な変化とグロバリージェーションに立ち向かう、自分たちの労働組合の役割を訴えた、
その後、彼らはアメリカ帰りの賢人社長を空港で対面し、自宅で話し合いをもった。
1 会社の行く末は、労働争議が起こる会社にしてはいけない、
2 「情報化社会」は労使対等原則でのりきること。
3 番頭の指揮をしている現在の「秘密労務組織・インフォーマル組織づくり」は、社員の意識分裂を起こし、活性化につながらない。
この経過は、執行部の高感度マイクで外に待つグループメンバーのもとで録音されていた。
賢人社長はその場で「番頭」に連絡し、やめさせた。
このように、私が知っている100に近い敗北の歴史のなかで、インフォーマル組織(秘密労務組織)に反撃したケースは、ほとんどないのではないかと思う。
このような「自己の良心にかけて団結を守る」労働組合づくりネットワークをめざす組織(総評にもそのような部署がなかった)がないことも不思議だった。
(注)上記の『狙われた労働組合』(金属反合理化闘争委員会)について、タイトルが不正確で申し訳ないですが、実物を探しています。
当時、医療機器製造系の企業労働組合の幹部が相談にきて、データや取材事実を提供して、IBM日本本社の広報雑誌(きれいなテーマもいい)の編集長が執筆してくれた冊子です。
これを読んで覚えがある方は、下記にメールをください。
sin_ryo11731あっとまーくyahoo.co.jp(あっとまーくを@に)
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