青木慧さんの『ニッポン丸はどこへ行く』――インフォーマル組織物語Ⅵ
日産厚木工場で7人の労働者が日産労組から除名解雇を受けたのは、1979年10月。
青木慧さんが『トヨタその実像』(汐文社、1978年)を出していたので、是非、日産についてこの問題から書いてほしいと手紙を書き申し込んだ(この時代にはまだメールなし)。
一度話し合いましょうということになり、船橋近くの公団に住む青木さん宅を訪問。
奥さんはそのころ農業関係図書の校正者で、出版事情をよく知っていた。
本に囲まれた青木さんは、「ここにも調査・尾行をするメンバーがウロチョロしているから、帰るとき気をつけて」といわれた。
その上で書いてもらったのが『青い鳥はどこへ―日産厚木除名・解雇事件』 (1980年)だ。ただし出版するまでが大変だった。
まず社内事情(企画書を上司だった人に出していたので通ったと思っていたが、原稿が出たときに問題になり、社外の『東京争議団物語』を書いた東京地評の市毛良昌さん、音楽家ユニオンの佐藤一晴さんの推薦文をもらう、つぎに内容点検で『労働問題研究会』、『明るい厚木部品をつくる会』(明厚会)の位置づけ(青木さんと私は労働組合員の活動の一環として書いたものを、政党の思想運動論としか見えなかった上司)、そして営業からは「売れない本を何で出すんだ」という声。
それをやっとくぐって出版できた本だった。
この争議の経過は、JMIUの日産自動車支部労組のHPで紹介されているが、下記の通り(ダウン中:2022年8月1日)。
「日産直系の部品メーカーである厚木自動車部品㈱(後のアツギユニシア)の労働者たちは、労働条件の向上、労働組合の民主化をめざして活動していましたが、同社は活動家に対する差別攻撃を始めました。1975年神奈川地労委提訴、1979年中労委で勝利和解。しかし、自動車労連・日産労組幹部は会社の姿勢を非難し、活動家七名を組合から除名し、ユニオンショップ協定を盾に会社に解雇を要求し、1979年10月に7名が解雇され、有名な厚木自動車部品解雇争議が発生しました」
この本づくりで青木さんの取材方法に感心した。まず当時の「7人へ暴力的いじめ」をした本人宅を直撃。40代の本人がびっくり出てきて、「家族には会社のことは何も話していないので」と近くの公園で、話を聞いた。
30分ほどだったが、「7人は自分たちの大切な会社を破壊する人間だ」という話が記憶に残った。どうして分かったのかは取材源の丸秘で不明。
この争議の解決は、10年後の1988年だった。この争議の前面でたたかった弁護士の一人、伊藤幹郎さんの下の文献が参考になる。
「日産厚木除名解雇事件の権利闘争上の意義」 (第33回東京労働争議研究会報告)、労働法律旬報 (1222), p21-25, 1989-08-25、労働旬報社。残念ながらインターネット上では読めない。
この本出版後、青木慧さんは塩路一郎天皇を暴いた『偽装労連―日産S組織の秘密』(1981年)を書いている。
その後、すぐに青木さんのところに声がかかったのが、朝日新聞社出版局の編集者からだった、私はアシスタントということで、そばで話しを聞いた。
「社としてルポルタージュのシリーズ物」を企画している、と話すのは同時代の感覚をもった新聞記者。そのなかで「日本的経営の実情をルポで書いてほしい」ということだった。
1970年代の「春闘敗北」が色濃く世間に広まっていたときだ。
<以下につづく>
2012年9月30日 (日)
『ニッポン丸はどこへ行く』が解明したこと――インフォーマル組織物語Ⅵ-2
http://okina1.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-f924.html
▽現代労働組合研究会のHP
http://e-kyodo.sakura.ne.jp/roudou/111210roudou-index.htm
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